「……失礼しま────あれ? 誉さんまだなんだ」


誰もいないガランとした稽古場を見渡し目を瞬かせた。

今日は誉さんとの授力稽古の日だ。いつも稽古は授業終わりの放課後に行われるので私の方が遅れて来るのだけれど、今日は初めて誉さんより早くついた。

薫先生が昼ごはんのあとから任務に出かけて、ホームルームがなかったからだろう。


中に入り神棚に手を合わせたあと押し入れから座布団を二枚引っ張り出す。

横に並べてひとつに座り、どうしようかなと当たりを見回した。


「君、話しかけてもよろしいですか?」


頭の中に直接響く、少し低くて明朗な声。


眞奉(まほう)。どうしたの? 大丈夫だよ」


そう答えると瞬きした次の瞬間には、音もなく目の前に正座をした眞奉が現れる。いつもの事ながら少し心臓がキュッとする。


「お兄さまより封筒を預かりました」

「お兄さま……って、祝寿(いこと)お兄ちゃんから? え、何で? 何を? お兄ちゃんが眞奉に渡したの?」

「ええ。先程祝寿殿よりお預かりし、君に渡すよう頼まれました」


眞奉はそう言って床の上にA4サイズの白い封筒を滑らした。混乱しながら封筒を受け取る。

まずお兄ちゃんと眞奉がいつ顔見知りになっていたのかを教えて欲しい。


「禄輪の元を尋ねた際に、偶然お会いしました。"俺に祓われたくなければ巫寿の様子を定期報告するよう"と」


思わず頭を抱えて項垂れる。

十二神使を脅してそんな約束を取り付けるなんて無茶苦茶だ。