「瓏は、千歳狐(ちとせきつね)や」


みんながハッと息を飲む音が聞こえた。

千歳狐、九尾の狐から千年に一度生まれるとされる伝説の妖狐。生まれながらに九尾の狐と同等の力を保持する最強の妖。


「……ちょっと待て。伝承では、千歳狐は力の制御を学ぶために空狐になるまで親元で修行をするから人里には降りてこないはずだ。あいつが今気狐なら、なぜここにいる」


医務室の壁にもたれていた恵衣くんが眉根を寄せて口を挟む。

千歳狐ってそんな伝承があるんだ。けれどそれが本当なら確かに恵衣くんの言う通りだ。

気狐は空狐の一つ前、500歳までの妖狐の名称だ。もし瓏くんが気狐だったとしたら遅くてもあと一年は親元にいるはずだ。


「瓏は生まれた時に黒狐(こっこ)の一族に連れ去られて、その時に両親も殺されてる」


あまりにも酷い仕打ちに言葉を失った。皆も悲痛な面持ちで口を閉じる。


「誘拐して千歳狐を自分とこの勢力に加えたかったんやろな。でもその伝承通り千歳狐は空狐になるまでは親元で力の制御を学ぶんや。学ぶ場を取り上げられた瓏は力を上手く制御できず周りに危害を加えてたらしい。黒狐族もそれをどうする事もできひんかった。だから信田妻狐一族がアイツを見つけ出した6年前までは監禁されたような状態で暮らしとった」


怒りで拳が震えて反対の手で押えた。

なんだよそれ、と慶賀くんが怒りに震えた声で呟く。