「あかん瓏、やめろ……ッ!」


突然信乃くんが叫んで、皆は「え?」と動きを止めた。

ぱっと振り向くと同時に、瓏くんが上衣の前合わせを強く引っ張り着崩したのが見えた。引っ張ると同時にガリッと肌を引っ掻く音がする。

その瞬間、両肩を上から強く押し込められるような圧力を感じてみんな一斉にその場に崩れ落ちる。

去年の夏休みに恵理ちゃんの家で産土神が現れた時の感覚に似ている。圧倒的な力の前で立つことも顔を上げることも出来ない感覚だ。

ブルブルと震える身体で何とか首を持ち上げる。視界の隅に白い何かが写った。

目を凝らす。尾だ、それは雪のように白い尾だった。犬や猫のように細くしなやかなものではなく、ふっくらしていて大きい。九本だ、尾が九本ある。その尾の先に九つの怪し火が灯っている。

少しずつ視線を上げていく。鞍馬の神修の制服の袴に諸肌脱ぎにした上衣、そして誰かの背中が見える。

白い肌は墨のようなもので汚れている。いや違う、汚れなんかじゃない。あれは文字だ。文字が肌に描かれている。

顔を上げる。頭が見える。何色にも染まらない白いその髪を持つ人物は、私が知っている人ではただ一人だけ。


「瓏、くん……?」


髪と同じ色の獣耳がぴくりと動いた。僅かに振り向き目を弓なりにする。


「────大丈夫、助ける」