「お兄さん、優しい人だね」


私がそういえば恵衣くんは少しだけ仏頂面を緩めた。まぁな、と呟いてお茶を飲む。

滅多に見せないその柔らかい表情から、心からお兄さんのことを尊敬しているんだと分かる。

何笑ってんだよ、と睨まれて緩む頬を引きしめた。


「怜衣さんって、顔とか雰囲気は恵衣くんに似てるの?」

「そんなの聞いて何になるんだよ。……顔は似てると思うけど」

「じゃあやっぱり────なんでもない」


性格は真反対なんだね、と言いかけて口を閉じた。

なんだよ、と不機嫌そうな顔をしたので肩を竦めて首を振った。

ため息を吐いた恵衣くんがふいと顔を背けた視線の先で何かを見つけたのか僅かに目を細めた。

振り向くと入口に瓏くんの姿がある。キョロキョロと辺りを見回して誰かを探している。


「瓏くん帰ってきたんだ。おかえり」


私の声に気がついた瓏くんが歩み寄る。


「信乃、知らない……?」

「信乃くんなら多分嘉正くん達と社頭で遊んでるよ」

「あ……そっか。開門祭」


開けた窓から聞こえてくる賑やかな声に、信乃くんは少し目を細めた。

瓏くんも普段あまり表情が変わらないので、どこか嬉しそうなその顔は珍しい。