ほとんどの学生は昼食を開門祭の屋台で済ませているのか、お昼時なのに広間はがらんとしていて静かだった。

入口に近いテーブルを陣取って腰を下ろす。

厨房から皿と箸を持ってきた恵衣くんは私の分を差し出した。


「何に使うの?」

「は? お前素手で食べる気かよ」

「え? いや、でも爪楊枝ついてるよ」

「どこにあるんだよ」

「蓋開けたら多分刺さってるから……」


試しに一つ二を開けると、太めの爪楊枝が丁寧に二本たこ焼きに突き刺さっていた。

爪楊枝を見つめて固まった恵衣くんにハッと口を抑える。


「もしかして恵衣くんたこ焼き初めて────」

「食ったことくらいある! 久しぶりだから感覚を忘れてるだけだッ!」


たこ焼きを食べるだけなのに感覚も何も。

目を釣りあげた恵衣くんは爪楊枝を引っこ抜くとブスブスたこ焼きに指して口に放り込む。

仏頂面でもぐもぐ口を動かす姿がなんだか面白くて吹き出した。


「笑うなッ。親が買い食いとか嫌うから、小さい頃に兄貴が買ってきてくれたその一回しか食ったことないんだよ」


貸したハンカチをクリーニングに出してから返してきたり、普段の立ち振る舞いから「育ちがいいんだろうな」とは何となく思ってたけれど、やっぱりそうだったんだ。

ご両親は厳しい人なんだろうけど、お兄さんはこっそりお土産を買ってきてくれるような優しい人だったんだろう。