「────あ、恵衣くん」
何とかお兄ちゃんの追撃を逃れ寮へ戻ってくると、広間へ入ろとうしていた恵衣くんとばったり会った。
「今からお昼ご飯?」
「……ああ」
「そうなんだ。私もさっき神話舞が終わって、今からなの」
あっそ、と無関心な返事に苦笑い。
じゃあまたね、と言いかけて左手に提げていた袋の存在を思い出す。
「そうだ、恵衣くんってたこ焼き好き?」
「は?」
「神楽の富宇先生から差し入れで貰ったの。沢山あるからひとりじゃ食べきれなくて」
そう言って袋を掲げる。
恵衣くんはしばらく何かを考え込んだ後、「もらう」と端的に答えて広間の中に入っていく。
慌ててその背中を追いかけた。