「────巫寿〜ッ! 最初から最後まで本ッ当に素晴らしかった! もう兄ちゃん感動で開始一分で泣いちゃって前が見えなかったよ!」
「それほとんど見てないって事じゃん……」
ギュウギュウと抱きしめてくるお兄ちゃんに冷たい視線を送りながら脱いだ袴や白衣を畳む。
「ああッ! 一緒に写真撮りたいからもう一回衣装着てよ!」なんてことを言い出して深いため息を吐いた。
神話舞は開門祭最終日の午前の部で大千秋楽を迎えた。
神話舞に出ることも伝えてなかったはずなのに、どこから情報を仕入れたのかビデオカメラを持参したお兄ちゃんが客席のど真ん中を陣取っていた。
客席から満面の笑みで手を振るお兄ちゃんに、私がどれだけ頭を抱えたくなったか。
頬をひきつらせて何とか最後までやり切って、やっと控え室で一息つけると思ったところでこうしてお兄ちゃんが突撃しにきて今に至る。
「すまん巫寿。てっきり祝寿にも神話舞に出ることを伝えているのかと思って、なんだったら一緒に観に行くかと私から誘ってしまった」
そう申し訳なさそうに片手で拝んだのは禄輪さんだ。
お兄ちゃんと一緒に来ていたらしく、舞台の上からも姿が見えた。
禄輪さんは私から招待したので問題ない、でもお兄ちゃんは招いていないのに……。