顔を上げた、その時。
「いい加減にしてください」
大きくはないけれどハリのある真っ直ぐな声が稽古場に響き渡る。
驚くようにみんなが振り向いた先には冷たい目でこちらを見る鬼子ちゃんが立っていた。
「 そんなに椎名さんが選ばれたことが気に食わないなら、影で姑息なことをせずに正々堂々と舞で戦ったらどうなんですか? 神職見習いともあろう者が見苦しいですよ。見ていられませんね」
皆が一斉に気まずそうな顔で下を向く。
でも、と一人の男の子が声を上げた。
「でも鬼子ちゃんだって、気に入らないって言ってただろ」
「私は椎名さんそのものが気に入らないと言ったんです。彼女のことは大嫌いですが、彼女の舞はあなた方より断然素晴らしいですよ」
思わぬ援護射撃に目を丸くした。
言い返す言葉がないのか気まずそうな顔のまま皆は方々に散り始めた。
内容はともあれ、助けてくれたんだよね……?
お礼を言おうと急いで立ち上がって一歩踏み出したところで、鬼子ちゃんが私をキッと睨んだ。
思わず足がすくむ。
「勘違いしないでください。私は陰湿で姑息なことをする人が嫌いなだけです。あなたを助けようと思って発言した訳ではありませんから、そのお礼も受け取りません」