ぎゅっと眉間に皺を寄せて不機嫌さを前面に出して歩き出した恵衣くん。
不機嫌な割には歩幅が小さくゆっくりとした歩調だった。
「……お前だって今微妙な時期なのに、俺と変な噂が立ってもいいのかよ」
恵衣くんは前を向いたままそう呟く。
やっぱり恵衣くんは優しい。その優しさがすごく分かりにくいだけで。
「平気だよ」
そう答えたのは強がりでもなんでもなくて、心の底からそう思ったからだ。
もし変な噂がたったとしても、私は傷付いたりしない。恵衣くんの優しさを知っているから、どんな風に言われてもきっと大丈夫だ。
少し目元を赤くした恵衣くんは「……あっそ」と呟いて顔を逸らした。