モグラが土から顔を出すように広大な鎮守の森からひょっこりと頭を出す荘厳な建物。長年手入れをされていなかったらしく所々に痛みはあるものの積み重ねられた年月が私たちに威厳を感じさせる。

社頭は朝の山頂の空気のように澄み渡っていて、空気は春の日の昼下がりのように温かい。花の蕾が芽吹き若葉が茂り生気に満ちている。何よりそこは言祝ぎが溢れていた。

まずは二人で本殿に手を合わせ、滞在することを報告する。

挨拶を終えて顔を上げた。深く息を吐けば、家を出てからずっとしかめっ面だった禄輪さんがやっと笑った。


「疲れたろ。少し休んでからにしよう。部屋の空気も入れ替えないとな」


目を細めて社務所を見上げた禄輪さんは、「行こうか」と私の背を押した。