「でも恵衣くんだって何でも知ってるし成績もクラスで一番だし……兄弟揃って優秀なんだね」
「やめろ」
割って入ったのは頑なな声だった。
「俺は怜衣兄さんよりも劣ってる。紛れもない事実だ。両親だって怜衣兄さんにとても期待してた、俺なんかより」
恵衣くんは吐き捨てるようにそう言った。その言葉がどこか苦しげに聞こえて振り向く。幹の影にいる恵衣くんの姿は、私からは見えなかった。
恵衣くんが立ち上がる気配がした。傘を広げて私の前に立つ。ちらりと私を見下ろして何も言わず少し傘を傾ける。
目元の腫れはもう引いたらしい。
「ありがとう」
恵衣くんは何も答えなかった。
傘に入ろうとして「あ」と声を上げた。なんだよ、と怪訝な顔で私を見る。
「あの、私のせいで変な噂が流れるかも……」
「はぁ? 何だよそれ」
「いや、その。だってこれ、ほら。相合傘になる……から」
そっと顔色を伺う。
徐々に目を丸くした恵衣くんは首から真っ赤になって眉を釣りあげた。
「あの、ごめんね」
「謝るくらいなら最初からこんな所に隠れるな! もっと屋根のある迎えに来やすい場所にいろよ!」
なんだか怒るポイントがおかしい気もするけれど、触れると余計怒られそうなので口を閉じて傘の下に入る。