「別に俺たちの年代ならよくある話だろ。専科一年の時に空亡戦で死んだ」


あ、と呟く。

空亡戦については一年の時に嘉正くんから教えてもらって、その後自分でも少しだけ調べた。

たくさんの死傷者が出て深刻な人手不足だった当時、神役諸法度でもまだ現場に出してはいけないとされる高等部以下の学生も派遣された。

学生は主に後方支援だったのもあって被害はほとんどなかったものの、神役諸法度では神職と定義される専科の学生はいきなり慣れない実践に放り出されてしまいたくさんの被害者が出たらしい。

恵衣くんのお兄さんも、その一人だったんだ。


「……どんな人だったの? 恵衣くんのお兄さん」


無視されるかな、なんて思いながらそっと尋ねる。

恵衣くんは間髪入れず「優秀な人だった」と答えた。


「皆が口を揃えて怜衣(れい)兄さんは優秀だったと言うほど、優秀な人だったらしい。高等部の一年の時にはもう本庁入りが決まっていて、誰もが兄さんの将来に期待してた」


怜衣さんという人なんだ。

その名前を呼ぶ恵衣くんの声はどこか誇らしげだった。


「強くて賢くて、誰にでも平等に優しくて、面倒見が良くて、責任感のある人だった」


恵衣くんがそういうくらいなら、本当に優秀な人だったんだろう。

それにしても……。


「性格は恵衣くんと正反対なんだね」

「だからなんだよッ!」


やっぱり怒った、と肩をすくめる。