少し落ち着くと今度は気まずさがむくむくと大きくなってきて、わんわん泣いて腫れぼったい顔まで見られたことが恥ずかしくなってきた。

なんならこの沈黙ですら気まずい。


「あの、恵衣くん」

「……何だよ」


いつも通りちょっと不機嫌そうに答えた。


「なんでここにいるって分かったの……?」

「それを聞いて何になるんだ。口を開くならもっと有意義な質問をしろ」


せっかく見つけた会話のネタもバッサリと切り捨てられた。

まぁそれが恵衣くんなんだけれど。

でも口も態度も悪いのに、たまにこうして凄く優しいんだよなぁ。ゴールデンウィーク明けの車の中でもそうだった。

ふん、と鼻を鳴らした音が聞こえた。それがやけに面白くて思わず笑ってしまう。


「何笑ってるんだよ」

「恵衣くんは優しいなって」

「はぁ? 頭大丈夫かお前」


でた。恵衣くんの「頭大丈夫かお前」。

くすくす笑っていると「うるさい」と叱られる。反対側でものすごく不機嫌な顔をしているのが想像できて余計に笑ってしまう。


分かりにくくて気難しくて、すごく不器用な人。それと同じくらい優しい人。