一旦涙は引っ込んで、すんと鼻を啜る。
雨も少しだけ弱まった。
「ごめんね、恵衣くん。もう大丈夫だから戻ります」
そう伝えると恵衣くんが立ち上がる気配がして私の前に現れた。
いつも通りの無表情で私を見下ろす。一向に傘を広げない恵衣くんに首を傾げた。
「……ちょっと待ってろ」
そう言って傘を広げて歩いていってしまった恵衣くんの背中を呆然と見送る。
え、もしかして置いていかれた……?
いやでも"待ってろ"って言ってたし。
言葉通りちょっと待っている間に戻ってきた恵衣くんは傘を閉じてまた幹の反対側に入ってくる。
不思議に思っていると幹の影からぬっと手が伸びてきて深緑色のタオルハンカチが差し出される。
「さっさと取れ」と急かされて戸惑いながらも受け取る。ハンカチは濡らされていて冷たい。
すぐに意図に気が付いて頬が熱くなった。
「そんなに酷い顔してる……?」
「蜂に顔刺された奴の方がマシ」
遠慮のない言葉に苦笑いを浮かべて幹に背を預ける。丁寧に絞られたハンカチを目の上に乗せて深く息を吐いた。