もう嫌だ、辛い。苦しい。
無視される毎日は悲しい。嘲笑する声に心が削られる。
何より誰もが私を疑うように見る目に晒され続ける日々は、息ができなかった。
冷たい雨粒が私の顔を濡らした。時折熱い雫が頬を流れる。そのまま全部流してくれるから今の私にはちょうど良かった。
その時、濡れた地面を走る足音が小さく聞こえた。
すぐに遠くなっていくだろうと思ったその足音はむしろどんどん近付いてくる気がする。
幹の影に隠れるように身を縮めたその時、足音は私から少し離れたところで止まった。傘が雨粒を弾く音が聞こえる。
恐る恐る顔を上げて目を瞠る。
「……頭おかしいのかお前。風邪ひくぞ」
目が合うと同時に吐かれた悪態。でもいつもみたいにキレはなくて、どちらかと言うと声色は優しい。
ザァッと雨足が強まってギュッと眉間に皺を寄せて空を見上げると、幹を挟んだ反対側の木の下に入ってきた。
不機嫌そうな顔で傘を閉じる。
「恵衣くん……なんで」
「お前すぐに戻る気はないんだろ。だったらこれ一本しかないんだから一緒に戻るしかないだろうが。俺に濡れて戻れとでも言いたいのか?」
そうじゃなくて、と言う声は涙で湿る。