「喧鵲禰宜が呼んでる。さっさと行け」
「え……? あれ、稽古は」
何言ってんだこいつ、とでも言いたげに眉を寄せた恵衣くん。
キョロキョロと当たりを見回せば、稽古後の後片付けが始まっていた。
「禰宜を待たせるな」
「あ……うん」
ひとつ頷いて禰宜の姿を探すと、出入口のそばで巫女頭と話しているのを見付けた。
小走りで駆け寄ると空気を読んだのか巫女頭が一つ頭を下げて立ち去る。
「お疲れ、巫寿さん。ちょっと話したいことがあるから社務所まで来てもらっていいか」
話したいこと?
もしかして稽古中にぼんやりしていたことに対するお説教だろうか。
咄嗟にそんなことを考える。それが分かりやすく顔に出ていたようで「説教ではないから安心しなさい」と笑われてしまった。
神楽殿の外に出ると外はどんよりと曇っていて細い雨が降っていた。
禰宜と小走りで社務所へ駆け込む。案内されたのは社務所二回の狭い会議室だった。
巫女助勤の若い神職さまがお茶とタオルを持ってきてくれた。ありがたく頂戴して濡れた肩にそれをかける。
「朝から曇ってたけど、やっぱり降り始めたな」
「え……? あ、はい」
朝、どんな天気だったっけ。
記憶を辿ってみるけれど何一つ思い出せず曖昧な返事を返した。