「あんにゃろッ……!」


慶賀くんが追いかけようとしたのを慌てて止めた。

そこまで謝罪を求めているわけじゃないし、これ以上ことを大きくしたくない。それにさっきから、興味津々にこちらを眺めているたくさんの学生の視線が痛い。

でも、と不満げながらも足を止めた慶賀くんと泰紀くんにお礼を伝える。


「……追いかけても、意味ないよ」


落ち着いたそんな声が聞こえたかと思うと、信乃くんが「おわっ」と驚いた声を上げた。


「ろ、瓏! お前戻っとったんか!」

「ん……思いのほか早く片付いたから」


いつの間にか信乃くんの隣に立っていた瓏くん。

さっき「意味がない」と言ったのは瓏くんだったらしい。

突然現れた瓏くんにも驚いたけれど、それ以上に普段一切自分から話の輪に入って来ない瓏くんが喋りかけてきたことの方が驚きだった。


「意味がないってどういう事だ? 意味ならあるだろ。悪いことをしたら謝るのが道理ってもんだ」


泰紀くんのそんな問い掛けに瓏くんは静かに首を振った。


「……今の子、悪いことしたって自覚ないよ。謝らせても、余計に悪化する。だから意味ない」


泰紀くんと慶賀くんが顔を見合せた。ガシガシと頭を搔くと深く息を吐く。確かに、と呟く。


「ああいうの、何言っても意味ないから」


目を伏せた瓏くん。信乃くんは励ますようにその肩を叩いた。