顔を上げる。目が合った。私を見下ろすいつも通りの冷静な目だ。
「恵衣、くん……」
「さっさと立て」
手を取るよりも先に掴まれた。引っ張られるように立ち上がる。
手を離した恵衣くんはスタスタと舞台に戻っていく。つられるように足が前に進んだ。その背中を追いかけているうちに舞台の隅にたどり着く。
しれっと列に交じった恵衣くんの隣に並ぶ。みんなの視線が痛いほどに突き刺さり、また頭がスルスルと下を向く。その時。
「やましい事がないなら胸張ってろ」
前を向いたまま恵衣くんが小さくつぶやく。
その瞬間、無性に泣きたくなった。
恵衣くんはムスッとした顔で「見てるこっちがイライラする」と付け足す。泣きそうだったはずなのに、思わずぷっと吹き出した。
どうしてこの人は、そんな言い方しか出来ないんだろう。
でもそのおかげで、前を向けそうな気がする。
息を吐いて前を見る。心臓がばくばくとうるさい。
相変わらず私に向けられる視線は厳しく、身体中に突き刺さるような心地だった。
掴まれた右の手首に残る熱を背中の後ろで確かめる。
そうすると向けられた敵意も少しは怖くなくなる気がした。