って感心してる場合じゃない。舞台の上で何を言うか考えないと。

必死に頭をめぐらせていると「おい、邪魔」と頭の上から冷たい声が降ってくる。

顔を上げれば席の細い通路を縫って歩いてきたらしい恵衣くんが面倒くさそうに私を見下ろしていた。


「恵衣くん? どうしたの?」

「だから邪魔。足どけろ」


え?と目を瞬かせたその時。


「高等部二年、龍笛(りゅうてき)部門、京極恵衣」


権宮司によって恵衣くんのなまえが読み上げられる。

私の前をすり抜けて舞台へ歩いていく恵衣くんの背中をぽかんと見送る。


「すげぇよな恵衣の奴」


隣に座っていた泰紀くんがそう呟いた。


「泰紀くん知ってたの?」

「知ってたっていうか、選ばれるだろうなって思ってた感じ? 去年の龍笛のテストで評価が嘉正より低かったらしくて、それからアイツ気持ち悪いくらい練習してたんだよ」


俺隣の部屋だから聞こえてくんだよな、と泰紀くんが肩をすくめる。

クラスで一二を争うのが嘉正くんと恵衣くんだから、テストでは二番の成績だったんだろう。

私ならきっとそれで満足しちゃうだろうけれど、恵衣はそこから更に努力したんだ。


舞台に進む恵衣くんの背中に皆が応援や尊敬の拍手を送る。