「あれ、瓏のやつ寝坊?」
朝拝に向かいながら、今朝から一度も姿を見かけない瓏くんをきょろきょろと探す慶賀くん。
確かにいつも朝拝の少し前には教室にいるのに今日はまだ来てない。
「あいつは昼まで別件で、夜明け頃から出かけとる」
「何あいつ副業でもしてんの?」
「な訳あるか」
「知ってるなら教えろよ信乃〜」
苦笑いを浮かべた信乃くんは「瓏が話してないなら俺からは言わん」と慶賀くんに手刀を落とす。
なにか事情でもあるんだろうか?
思えば土日に遊びに誘っても断られてばかりだし、朝早くから出かけて夜遅くに帰ってきているようだった。
「女か!? まさか女なのか!?」
「さぁ。どうなんやろな」
「クソォ! 女だったら絶対に許さないぞ瓏のやつ! 抜け駆けしやがって!!」
まねきの社へ続く階段を一気に駆け下りた慶賀くんが真ん中辺りで「彼女欲しいー!!」と叫ぶ。
上から見ていた私達はそんな背中にケラケラ笑った。
そして次の瞬間、案の定般若の顔をした巫女頭が社務所から飛び出してくるのが見えた。物凄い勢いで階段を駆け上がってきた巫女頭は慶賀くんの襟首を摘むとずるずると引っ張って行く。
「お、おい。連れていかれたで?」
焦った信乃くんが指を指した。
「今に始まったことじゃないからほっとけ」
「馬鹿だよねぇ」
「もはや風物詩でしょ」
隣の鬼市くんが「可哀想な奴だな」と呟いて堪えきれずに吹き出した。