前来た時と同じように本庁の受付で名前を伝えれば、若い役員に中へ案内された。
事前に聞いていたとおり、今回は室内の稽古場へ案内される。こじんまりとした板張りの床の一室で、壁には神棚が祀られている。どこにでもありそうな稽古場だった。
神棚の下には姿勢を正して手を合わせる誉さんの姿があった。
「こんにちは。遅くなりました」
その背中に声をかければ、誉さんはぱっと顔を上げて振り返った。
「巫寿さん、こんにちは。神話舞の稽古が始まったんでしょう。疲れているのに私の予定に合わせてもらって悪いわね」
「いえ……! こちらこそわざわざ来て……いただいて……?」
私、いつ誉さんに神話舞の話をした?
誉さんと会ったのは神話舞に誘われるよりも前の事だ。なんなら稽古が始まる日だって、顔合わせの日にやっと決まった。
どうして誉さんが知っているの?
「ふふ、不思議いっぱいって顔ね。私が誰か忘れた?」
ゆっくりと目を弓なりにした誉さんに「あっ」と声を上げる。
「もしかして先見の明で……?」
「ご明察。さぁ、稽古を始めましょう」