「そういえば巫寿、騰蛇(とうだ)はどうした? 何かあれば私へ伝えるように頼んでいたが、最近は全く顔を見ていないぞ」


何度か瞬きをして、確かにそうだと目を見張る。

騰蛇────十二神使(じゅうにしんし)と呼ばれる妖にして妖にあらず穢れを嫌う清廉潔白な存在だ。

最高神、撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(つきさかきいつのみたまあまさかるむかつひめのみこと)に仕える十二匹の神使(しんし)の一匹で、燃えるような真っ赤な髪と瞳を持っている美しい妖だ。

書物では審神者しか使役できないのだと書いていたけれど、意外とそうでもないらしい。

実際に騰蛇も禄輪さんが使役していたところを私が譲り受け、今は私のそばにいてくれている。十二神使側から主従関係を反故にすることで、審神者以外の人間でも使役できるみたいだ。

名前も教えてもらった。赤眼の妖十二神使の騰蛇、彼女の真名は眞奉(まほう)


普段は人の目には見えない姿で私のそばにいる。何か頼めば淡々と手伝ってくれるけれど、基本的に話しかけても一言二言しか返って来ない。

眞奉の性格も寡黙で淡々としているし、人と話すことはそんなに好きではないのかもしれないと思って私も話しかけることは滅多にしなかった。


思えば眞奉と話したのは一学期のあの事件に遭った時が最後だ。私が現状を禄輪さんへ知らせるようにお願いして、眞奉は私から離れた。

それからは一度も姿を見せてくれていない。