「べ、別に鬼市くんとはただ少し話をしようとしただけで」

「それが安直な考えだと言ってるんだ。馬鹿なのかお前は」


う、と言葉につまる。

確かに恵衣くんの言う通り皆が私の動向をちらちらと気にしている今、男の子と二人きりになっている場面を誰かに見られたらまた変な噂が立つかもしれない。

でもそれにしたって言い方が悪い。

唇を尖らせて眉間に皺を寄せると、眉を釣りあげた恵衣くんに睨まれた。ろくな反論も出来ずに縮こまる。

その時、二の腕を引かれたかと思うと鬼市くんが背中に私を隠した。目を丸くして顔を上げる。


「おい恵衣。気になるからって巫寿にちょっかい出すのやめろ。流石に目に余る」

「は……はぁ!?」


恵衣くんが見たことの無いような顔をして聞いた事のない声を上げた。

目をかっぴらいて顔を真っ赤にしてわなわな震えている。


「俺が、そんなこと……ッ」

「してるから今こうして止めてんだろ」

「うるさいッ!」


あの冷静沈着でどんな時もクールな毒舌恵衣くんが手の上で転がされている。

すごい、と思わず尊敬の眼差しを鬼市くんに向ける。それが恵衣くんは気に入らなかったのか大きな舌打ちをした。