その日の放課後、神楽部顧問の富宇先生に呼ばれていた私はいそいそとカバンに教科書をしまっていると鬼市くんに声をかけられた。
「巫寿、ちょっといいか」
聞きたいことがあるんだけど、と続けた鬼市くんは教室の外を指さす。
間違いなく詞表現実習のあとのことを聞きたいんだろう。
あんな場面を見せておいて何も話さない訳にはいかないか……。
「うん」とひとつ頷いて教室の外に出ようとしたその時。
ガラッと教室の外から扉が開いて恵衣くんが現れた。さっき薫先生の手伝いでプリントを職員室に届けに行っていたので、ちょうど今帰ってきた所なんだろう。
恵衣くんは揃って外に出ようとしていた私たちを見た。
「恵衣、だっけ。そこ通りたいんだけど」
鬼市くんが相変わらずの無表情でそう言う。
そんな鬼市くんはスルーして場所を開ける訳でもなく私を見る。
「おい。あんな噂が立ってるのに、よくもまぁ安易に男とふたりになろうと思えるな」
カッと耳が熱くなる。