潜めるつもりのないひそひそ話が耳に届き顔を強ばらせた。

どくん、と嫌な感じに鼓動が速くなる。


鬼子ちゃんに話しかけられたあとまた変な噂になりそうだなとは思ったけれど、案の定尾ひれだけじゃなく背ひれまで付いて広まっている。

特に女子生徒からの視線が前よりも厳しくなった気がした。


鬼市くんが何か話しかけてくれているのにどんどん頭は重くなってつま先を見つめる。笑っている頬が引き攣る。

その時。


「お前ら何なの」


鬼市くんのそんな声がして「え?」と顔を上げる。隣を歩いていたはずの鬼市くんがいない。

慌てて振り返ると私の噂話をしていた中等部の女の子達の前で足を止めていた。


「ひそひそ聞こえてすげぇ感じ悪い。言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろ」


眉間に皺を寄せた鬼市くん。無表情なのと背が高いのも相まって迫力がある。

中等部の女の子たちは怯えたように身を寄せあって、困惑気味に視線を逸らす。


「こっちの神修では"言祝ぎを口にしろ"って習わないのか」


慌てて駆け寄って鬼市くんの腕を引く。


「鬼市くん、いいから……」


険しい顔をした鬼市くんが私を見下ろす。


「次の授業始まるから……もう行こう」


もう一度手を引くと、女の子たちはその隙にパタパタと走っていく。

その背中を睨むように見た鬼市くん。