「ちょっと着いてきてもらっていい? 次の授業抜けることは、もう豊楽先生には伝えてるから」
そう耳打ちした薫先生に戸惑いながらもひとつ頷く。手ぶらでいいよ、と言われたので薫先生の隣に並んで歩き出した。
「ゴールデンウィークはどうだった? のんびりできた?」
「あ……はい。外泊許可ありがとうございました」
頭を下げると薫先生は「なんのなんの」と軽く私の頭を叩く。
その素振りが禄輪さんにそっくりでちょっと面白い。
「帰ってきたばかりのところ申し訳ないけど、いよいよ呼び出しだ」
「呼び出し、ですか?」
「ん、本庁からのね」
本庁、と心の中で繰り返す。
本庁からの呼び出し、となると例の件しかない。間違いなく私の直階一級の件で呼ばれたんだろう。
「今回は巫寿の授力についての聞き取りだから、流石に俺でも立ち会えないんだ。ごめんね」
小さく首を振る。
本来なら前回の呼び出しだって私一人で行くべきだったのに、薫先生が心配してついてきてくれたんだ。これ以上甘える訳にも行かない。
「言霊の力や授力のことで、部外者がとやかくいうのは本来おかしいことなんだよ。だから前も言ったけど、自分の力について答えたくない質問は答えなくていい。正当な権利だからね」
薫先生はそう念を押した。
はい、と頷きながらも前の聞き取り調査を思い出す。
前回だって授力について話すかどうか迷っていたけれど、本庁の役員の誰かが私に言霊の力を使ったせいで話してしまった。
今回もそうなるかもしれない、と思うと少し怖い。