「この一年で色々なことがあっただろう。楽しい事じゃなくい。苦しいことも悲しいことも、辛いこともあったはずだ」


あ、と小さく声を漏らす。

この一年は本当に楽しかった。新しい友達に新しい環境、慣れないことは多かったけれど毎日が新鮮だった。

それ以上に、この世界に踏み込んでいなければ味わわずに済んだ悲しみや苦しみも沢山あった。垣間見た人間の醜さや恐ろしさは今もこの目にしっかりと焼き付いている。

自分の私利私欲のために禁忌を犯した人、圧倒的な悪意を抱いた人、復讐のために道を踏み外した人。

許されることではないと分かっている。ただ、その道に走ってしまった気持ちが少し分かるからこそ苦しかった。

私達はそんな人たちを導き、時に罰さなければならない。神職というのはそういう仕事だから。


「これからもこの世界に身を置くなら、ずっとそれはついてまわる。優しい者ほど時に心を病む」


禄輪さんが真剣な眼差しを向けた。


「神修で一年間学べば、ある程度は自分で身を守れるだけの力は付く。薫にもそう教育するよう頼んだ」

「えっと……」

「それにこの一年巫寿に起きた出来事を思うと、私も祝寿も新学期に快く神修へ送り出すことは難しい」


ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。

目を見開いて禄輪さんを見つめる。