「巫寿も知らなかったのか?」

「えっ、何を?」


広間の中へ足を踏み入れる。

丁度外へ出ようとしていた誰かとぶつかって、よろめいた所を咄嗟に支えられた。


「ごめんなさ────」

「巫寿」


知っている声に名前を呼ばれてハッと顔を上げた。

視線が合って目を丸くした。


鬼市(きいち)くん……?」


短い黒髪に考えが読み取れない淡々とした表情。

一年生の三学期に神社実習で出会った鬼の妖八瀬童子(やせどうじ)一族の鬼市くんだ。


「な。すぐに会えると思うって言ったろ」


無表情を若干崩して目を細めた鬼市くん。


「でも、どうして」

「異文化理解学習。三年に一度、そっちの神修とこっちの神修で、生徒をお互いの学校に派遣しあって交流するんだよ」


異文化理解学習、そんな行事があったんだ。でも薫先生、そんな話してたっけ?


「これから数週間、よろしくな」


差し出された手を握る。握ると同時に強く手を引かれて体がつんのめった。

鬼市くんの肩にとんとぶつかる。


「意識してもらえるように、頑張る」


私の耳元で囁くようにそう言った鬼市くん。

三秒固まった後、意味を理解しておそらく首まで真っ赤になった。