早口で祝詞を奏上する。祓詞だ。

でも祓詞なんかであの大百足を修祓することなんて────。


「……祓《はら》へ給《たま》ひ清《きよ》め給へと 白《もう》すことを聞《き》こし召《め》せと 恐《かしこ》み恐みも白す!」


次の瞬間、大百足の足の一本が銃で撃たれたみたいにパシンと跳ねてちぎれた。宙を舞った足はそのまま空中で霧散する。

黒板を引っ掻いた時のような背筋をゾッとさせる耳障りな音が響き渡る。大百足の鳴き声だ。


激しく身体をうねらせた大百足が頭をこちらに向けた。鋭い牙が見えて息を飲む。


「え、恵衣くん。これ余計に刺激しただけなんじゃ」

「うるさい分かってるッ!」


三学期にも度々思ったけど、恵衣くんって結構無謀なことをするところがある。

神社実習の時だって飛び出していったり自分一人で何とかしようとしたり。


キィィ、と大百足が叫ぶ。窓越しに目が合った気がした。

体を鞭のようにくねらせて勢いよく振り下ろした。車に体当たりする気だ、このままじゃ叩き潰される。


叫び声が喉まで出かけたその時、



「下がってて」



私と恵衣くんの間をすり抜けて、ひょいと窓枠に足をかけた人影があった。

白い後ろ姿に目を見開く。