「おい、本当に大百足なのか」
こくこくと頷けば恵衣くんは顔を顰めた。
まずいな、と呟く声が聞こえた。
大百足は肉食の妖だ。基本は淡水魚を主食としているけれど、人を襲う被害も毎年数件は上がっているらしい。
水辺に生息する妖がなぜ森の奥にいるのかはさておき、もしずっと森の奥にいたのなら大百足は餌を確保できず空腹状態のはず。
そんな所に人が何人も現われたら。
ぞっとして口を閉じた。言葉にするのもおぞましい。
その時、前の車両の方から悲鳴が上がった。車が揺れて、今度は前の車両を襲ったんだ。
生徒たちがどんどん前へ前へと逃げていく。
一箇所に集まれば、もっと狙われやすくなってしまうのに……!
恵衣くんが人のあいだを塗って車の右側へ走った。
「恵衣くん……!?」
慌てて追いかけると、恵衣くんは窓の御簾を持ち上げて身を乗り出す。
恐らく大百足のお尻の方だろうか、ガサガサと蠢く足に息を飲む。
恵衣くんがキレのある柏手を打った。