「うわぁああッ!」
車内のざわめきをかき消すほどの叫び声に皆が動きを停めた。声の元を辿れば、右側の壁にいた男の子が尻もちをついて目を見開いている。
なんだなんだ、と皆が右側へよって窓の御簾を持ち上げる。
私も人だかりの隙間から顔をのぞかせた。
森の奥を走っていたらしく、木々が見える。その木々の合間から見えた赤黒く光る何かに目を見開いた。
恐らく、この車の一車両分と同じくらいの大きさだ。胴体は赤黒く細長い。その胴体から昆虫のような深緑色の足が無数に伸びていて、交互に動いた。
恐らく顔の部分と思われる場所には蜘蛛のような牙があって、合わさる度にガチガチと金属を叩くような音がした。
思わず一歩後ずさった。
「おっ……大百足だッ!!」
誰かがそう叫んだ瞬間、車の中は悲鳴で溢れた。
大百足、水辺に生息する妖の一種だ。
名前の通りその姿は大きなムカデそのもので、牛鬼以上に危険な妖とされている。神役諸法度では見つけ次第修祓の対象とされていたはずだ。
我先にと後ろの車両へ逃げようと駆け出すみんなに押されて左側の壁へ押しやられた。
同じように壁側に押しやられた恵衣くんと目が合う。