乗り場を出発して一時間くらいたった頃、心地よい揺れにうとうとしていると突然のご神馬さまの嘶く声がして車が激しい音を立ててふわりと右に傾いた。

突然のことにあちこちで悲鳴があがる。

ちょうど左の壁際にいた人達は急に車体が持ち上がったことで激しく転倒した。私も畳の上を転がりそのまま滑り台を滑るように右側の壁へ流されそうになったところを、両手首を捕まれ何とか耐える。

窓に手をかけた恵衣くんが咄嗟に掴んでくれたらしい。

反対の手首を掴んでくれたもう一人を見上げる。黄色い瞳と目が合った。恵衣くんと同じように窓枠に手をかけて何とか体勢を保つ彼の白い髪が揺れる。


「あ、ありが……」

「口閉じてろ、舌噛むぞ!」


傾いた車体がゆっくりと元に戻り始める。急いで口を閉じで奥歯を食いしばった。

あちこちが激しく軋む音を立てた。次の瞬間、バキバキッと木が折れる音と共に地面に打ち付けるような感覚がした。車体が何度か弾み元の向きに戻る。

弾んだ衝撃でおしりを激しく打ち付けて顔を顰める。


「大丈夫?」


落ち着いた声が私に向けられる。木琴の低い音のような優しくて丸みのあるくぐもった声だ。

顔を上げると白髪の男の子が黄色い目を細めて首を傾げていた。


「う、うん。手、掴んでくれてありがとう」

「どういたしまして」


少しだけ口角を上げて微笑んだ彼は、立ち上がって窓にかかる御簾を持ち上げた。


周りの様子を伺う。

あまりにも突然で一瞬の出来事に、中にいた学生たちはおろおろと辺りを見回していた。


一体何が……。