「私も楽して昇級したーい」
「あはは、ちょっとやめなよ」
「だって事実でしょ?」
こういう時、男の子が少し羨ましく思える。
男の子は大抵取っ組み合いの喧嘩をして拳で解決できるけれど、女の子はそうはいかない。女の子はこうなった時、影から悪意という名の小石を飛ばしてはクスクスと笑うだけだから。
気にすんなよと皆に言われて気にしないように気丈に振舞っていたけれど、何回も同じ場所に当たればいずれ岩をも砕いてしまう。
ゴールデンウィークを目前に控えたある日の授業中、当然天井からぽたりと雫が降ってきてノートを濡らした。
何事かと思って天井を見上げるけれど何も無く、不思議に思ってまたノートに目を落とす。今度はポタポタポタと三滴落ちた。
なにこれ、と眉根をよせながらポッケからハンカチを取り出してノートにあてたその時、その手の甲にまた雫が落ちた。
雫は温かかった。そこで、それが自分の涙であることに気がついた。気が付いたら今度は止まらなくなった。壊れた蛇口みたいにぼたぼたと大粒の涙が溢れた。
ちょうど授業をしていた薫先生が「巫寿、保健室行っといで」と助け舟を出してくれた。その声にみんなが振り返る。泣いている私に驚きと不安が混じった顔をした。