小さなしこりを胸に残したまま部活が終わった。

練習室を雑巾がけした後は、いつもはみんなで雑談をして最終下校時間に帰るのだけれど、今日はなんだかその輪に入っていきずらい。

今日はもう帰ろう。

そう思って壁に寄せていたタオルと水筒を手に取ったその時。


「ねぇ」


後ろから声がかかって振り返る。


「盛福ちゃん、玉珠ちゃん……?」


戸惑いと怒りを混ぜたような険しい顔をした二人が立っている。

話しかけてくれたことの嬉しさよりも、二人の表情が気になった。


「あの噂、本当なの?」


唐突な質問に首を捻った。


「えっと、何の噂だろ?」


私がそう返せば、周りで聞き耳を立てていたらしい部員たちがヒソヒソと何かを話し始める。

楽しい話をしているのではないことだけはよく分かった。


「シラ切るんだね。でも、もうみんな知ってるよ。昇階位試験のこと」

「昇階位試験……?」


周りのざわめきが止んだ。みんなの視線が私に向けられている。


「試験で一級取ったって、本当?」


目を見開いて「なんでそれを」と呟く。それを聞き取った周りの部員たちが一気に騒ぎ出した。

だって階級のことはクラスメイトの皆にしか話していない。それだって薫先生が「巫寿の階級のことで今本庁と揉めてるから、今は誰にも言わないでね」と箝口令をしいていたし、そもそも皆が言いふらすような人だとは思えない。