存在していたハズの陣内さんがいなくて。



でも、私の手元には、
陣内さんから貰ったタバコの残りもあった。



それに、
キスの温もりだってちゃんとあるから。



陣内さんという人を否定されたのが悔しくて。



私は、〝陣内さんがいないバイト〟を辞めた。



陣内さんにもう1度会いたいと思ったけど、
そもそも、連絡先も分からなくって。



────── あの夜にきみが消えた。



そんな事実だけが残ってしまう結果になった。



付き合っていない2人がキスをしたから。



たぶん、
言い方を変えれば、ワンナイトだろう。



でもね、陣内さん。



私は、あの陣内さんとタバコを吸って、
キスした一夜が、記憶にちゃんとあったから、物語を紡ぎたいという夢に向かおうと思えた。



──────きみがマボロシだとしても。





fin.