私が15歳のとき、彼は新卒採用でやってきた音楽教師だった。

始業式が行われる体育館はだらだらと流れ続ける無意味な校長先生の有り難い(らしい)言葉がハウリングしていた。
その雑音を聞きながら、私は、空気の入れ替え用に少し開けられた小窓を見ていた。
桜の花びらが揺れるようにゆっくりゆっくり小窓を横断していく。
落ちる速さは秒速5センチメートルと言うけれど、校長先生の話よりかはずっと早い。

それよりも早いのは、さっきから私の後頭部に当たり続ける消しゴムのカスだ。

頭に、首筋に、チリチリと虫の足が這うような感覚、背筋を滑るようにして肌着の中に落ちていくそのゴミたちを無視し続けた。何がそんなに楽しいのかわからないが、クスクスと笑う声が聞こえる。

私が消しゴムのカスを浴びないといけない理由などあったのだろうか。夜な夜な考えて、眠れない日があった。考えてもわからない問は考えても時間の無駄だと悟って、目を閉じても眠れない日は続いた。


今まで幾度となく繰り返されてきた私に対しての“イジり”は、特に理由などはない。
“イジり”であって“イジメ”ではないというのが主犯格の言い分らしいため、そちらの表記に合わせてあげた。教師もそちらのほうが都合がいいらしかった。