◇◇◇

「あ! お客さん! 着物似合ってるね〜」
「え、そう? ありがとう……」
下の階に行くと、藤が言っていた通り、桃香が待っていた。
「ちなみに、お客さん、名前は?」
「環だよ。一ノ瀬環」
「へぇ、環! カワイイね〜」
「えっと、桃香さんは?」
「わたし? わたしは三千(みち)桃香! “さん”呼びにするなら“ちゃん”呼びにしてね!」
桃香はそう言って、その名の通り、桃のようなような明るくて可愛らしい笑みを浮かべた。
けれど、そこで僕は1つ、違和感を覚えた。
藤と桃香とでは、苗字が違うのだ。
ずっと姉妹かと思っていたが、よく考えてみれば、2人はあまり似ていない。
藤には藤の花のような気品さが、桃香には桃の花のような可愛さがある。
雰囲気が、少し違うのだ。
「あ! そうだ。シノさんが、環に会ってみたいって言ってたよ。連れてってあげる!」
「え、そう、なの?」
「ほら! 早く行かないと!」
桃香は僕の手首を引っ張り、迷路のような廊下を走って行く。
意外と足が速い桃香に置いていかれないように、僕は必死に足を動かす。
そこには、藤にも桃香にも似つかない少女が沢山いた。
折り紙やお手玉、童歌……。
年齢は僕達と同じか、それ以下の女の子が多いように見えた。
「はい! シノさんはここにいると思うよ。いなかったら少し待ってて」
「うん。わかった」
そう言われて、僕は“朝焼けの間”と書かれた札が掛かった部屋に入る。
現代のリビングルームくらいの大きさだろうか。そこそこ大きい。
けれど、そこには僕1人。“シノさん”らしき姿はなかった。
訳がわからないまま、僕は近くにあった座布団に座る。
今どき、畳がある家なんてあまりないからか、どこか新鮮な感じだ。
何をして時間を潰そうか、と思っていると、

「ねぇねぇ。かずらさま、すごくきれいだったよ」

と、隣の部屋から声が聞こえてきた。
“朝焼けの間”がほんの少し暗いせいか、隣の部屋の様子が影になって見えた。
話し方からして、3歳くらいの幼い子供だろう。
おさげの女の子と、お団子ヘアの女の子。
「ぜったいそうだよ。だって、むらのみんながいっしょうけんめいじゅんびしてるんだもん。……ねぇ、おうたのとおりだった?」
「うん。きものも、かんざしも、おぐしも、おかおも、ぜんぶおうたのとおりだったよ」
「あたしたちも、あんなふうにおしゃれしたいよね」
「そうだよね。……でも、わたしたちはシニガミサマのところにはいけないよ」
「……カワイソウだよね、かずらさま。だって——」
そこまでずっと話していた2人の内、お団子ヘアの女の子が、一度、言葉を切ってから言った。

「——こんばん、シニガミサマにつれていかれちゃうんだもん」