「さっ、帰ろっか~!アイス食べたら酔いも覚めたよね」

すくっと立ち上がって背伸びをする。
明日になる前には帰ろうって言ったのに、もう明日になろうとしてるし。


歩き出す、また真っ暗なこの道を。

もうすぐお別れがやって来る最初で最後の夜を。


「…もう一緒にこうやってアイス食べられないね」

「え、なんで?」

「だって市野、彼女いるもん」


この先私がそんなふうになれることはないから。

一緒にいて私だけ夢を見るなんて出来ない。


「でも牧との関係に変わりはないよ」


少し後ろを歩いていた私に、体を向けてまでして振り返ってくれる。


ずっとそうやって思われてたから。

それは私のなりたい関係じゃなかったよ。


私のなりたい関係は…


「だってキスしてくれなかったもん」

「それはしないでしょ普通に!」

さよならをする曲がり角、ピタッと立ち止まって手を振った。

「じゃあね市野、私こっちだから!」

「うん、お疲れ!またな!」

ここを曲がれば見られないで済む、だって市野は振り返るなんてことしないから。


もう私のことなんて見ていないから。

私のことなんて、もう…


「…っ」


だから溢れて来てもいいよ涙。



あれが私の精一杯の抵抗だった。



酔った勢いのキスでも、ついでのキスでも、別れのキスでも…

何でもよかった。



触れてくれたらそれだけでよかった。



そしたら真面目な市野は悩んで傷付く。

もう私とは会わないって言うと思う。


それで全部終わらせたのに。

終わらせたかったの。



ずるくてひどいのはわかってる…




でもそんな忘れられない夜にしたかったの。