コンビニから出てすぐに買ったバニラバーを袋から出した。自動ドアのすぐ隣にあるベンチに腰かけて、隣にゴミ箱もあるから助かっていい。

歯を立ててぱくっとかじる、たまらないミルク感が口の中に広がっておいしい。

「そーいえばさ、牧が好きなうちのバイト先のメロンパン今度リニューアルするんだよ」

「嘘!?あんなにおいしかったのに!?てゆーか市野も好きじゃん!」

「うん、だから超切ない」

「私あんなにパン屋通い詰めたのに…!」

「毎回ありがとうな」

さくってしたクッキー生地をかじるとメープルシロップでびっちゃびちゃな中身が出て来て、じわ〜っと甘ったるいメロンパン最高だったのに…
でも真っ先に思い出すのはびっちゃびちゃなところって、そこだけ聞くと全然おいしそうには思えないか。

「ハマってたのは俺らだけだったらしい」

「え、全人類好きかと思ってた」

「あれウマイって言ってるの牧しか聞いたことないし」

「それも市野が絶対ウマイから食べてくれ!ってバイト始めた次の日に持って来たんだよ」

「そーだっけ?」

朝一LINEが来て、どうしても牧に渡したいものがあるから今日の昼は一緒に食べようって。
ちょうど去年の今頃だった、初めて誘われたからドキドキして牧も絶対好きだからって言われたのが嬉しくて。

もしかして市野もそんなふうに思ってくれてるのかなって、だからメロンパンだって…たぶんどんなメロンパンよりおいしかった。
だからあんなに通い詰めたのにね。

「甘すぎるんだって、もう少しバターを強くするとかあの甘さ全開の濡れた生地をもう少し軽くした方が万人には受けそうってさ」

「ふーん…、それ誰が言ってたの?」

「……。」

最後の一口のバニラバーを口の中に入れて溶かした。

「彼女か」

脚を組んでハァとわざとらしく息を吐いたら市野がぼんっと頬を赤くした。

「あらやだ、付き合いたては初心なのね♡」

「うるさいなっ、なんだよそのキャラ!ちょっと自分から言い出してなんか…っ、あれだっただけだよ!」

「えー、純真♡」

口をむぎゅってして、食べ終わったバニラバーの棒をゴミ箱に捨てた。私の手から持っていた棒と一緒に、恥ずかしそうにして私の顔は見なかったのにこんなとこだけは…

「彼女…バイトはもう慣れた?」

「あぁ、もう3ヶ月だし」


バイトを初めて3ヶ月、市野と出会って3ヶ月…


3ヶ月子に負けるなんてね。

私の3ヶ月目は市野にメロンパンをもらった時だった。