立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。美人を形容するこの言葉。元々は生薬の用い方を例えだったらしい。
 立てば芍薬の”立てば”はイライラとし気のたっている女性を、座れば牡丹の”座れば”はペタンと座ってばかりいるような女性を、歩く姿は百合の花は百合の花のようにナヨナヨとして歩いている様子を表現しており、心身症のような状態を意味してる。
 館内を回っている時の彼にピッタリの言葉だと思った。いや本当に。
 雨上がりの夕暮れに広がるオレンジ色の空からはどこか懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
 両腕を上に挙げて思い切り伸びをする。
 
 「んーーーーっと!シャバの空気はうまい」
 「別に私には束縛の趣味はないよ」
 「わたしはされても良いよ」

 縁無し伊達眼鏡の向こうにある彼の瞳が大きく開かれ、それが直ぐ少年のような可愛らしい笑顔へと変わった。
 硝子みたいに透明で雪みたいに白くて角砂糖みたいに甘くて春風のように穏やかな人。
 多分、彼は良い人だ。