ヴィアザはこんなふうに、日射しを浴びることができない。夜でなければ動けない。
 ――ヴィアザは多分、あたしよりも多くの人間を殺して生きている。あたしよりも、生きたいという意志が強い気がする。そして、ヴィアザは誰よりも傷ついて、苦しんでいる。顔には一切出さないけれど、とても、辛いはずだ。彼の過去を、知りたい。どうして今のような生き方になったのか。なにかきっかけがなければ、あんなに哀しい雰囲気を放つはずがない。
 セリーナは溜息を吐くと、家に戻った。


 ヴィアザは、テーブルの椅子に座って、ワインを呑んでいた。
「朝から呑んで大丈夫なの?」
 セリーナが驚きながら尋ねた。
「大丈夫だ。酒なら、いくらでも呑める」
「酔い潰れたことは?」
「ない」
「え? ホント?」
「ああ」
「そうなんだ」
 セリーナの驚いた顔を見た、ヴィアザは苦笑した。

「ちょっと気になっていたのだけれど」
「なにがだ?」
 木の杯を煽りながら、ヴィアザが視線を向けた。
「あなたは、生まれたときから、ヴァンパイアだったの?」
「違う。いい機会だから、話してやるよ。長いが構わないか?」
 セリーナはうなずいた。

* * *

 ヴィアザがまだ人間だったころ、ある国の兵士として戦いの中、重傷を負った。
 止血が追いつかず、解決策がないときに、謎の男がやってきた。
「このままだと、君は死ぬ。生きたいかい?」
 激しい痛みの中、その声を聞いたヴィアザがうなずいた。
「人間ではなくなるが、構わないかね?」
 ヴィアザはうなずいた。
「分かった」
 男がなにかをした。
 ぼんやりとしていた意識が急激に戻り、身体を起こす。
「二人きりにしてくれ」
 人払いをすませると、男が口を開いた。
「君はヴァンパイア、吸血鬼になったんだ。時間もないから手短に。日光を避けて、夜に動いた方がいい。あとはそう。私は君の血を少し飲ませてもらった。ヴァンパイアの掟はただひとつ。新たにヴァンパイアとなれた者がいた場合は、その場で自害すること。むやみにヴァンパイアを増やさないためのものだ。生きたければ、誰かをヴァンパイアにしたいと思わないこと。いいね?」
 ヴィアザはうなずいた。
「じゃあ、さよならだ」
「救ってくれて、ありがとうございました」
 ヴィアザそれだけ告げる。
 部屋を出ようとして、肉を貫く鈍い音を聞き、どさりと骸が倒れる音を聞いた。
 顔を歪めながら、ヴィアザは立ち去った。


 ヴィアザはその辺にあったフードつきのマントを着て、逃げ出した。
 追手を振り切るために、一撃で殺した。
 血が溢れた瞬間、飲みたいと衝動にかられたが、必死にこらえて国の外まで逃げた。