僕の色いろな物語



昨日、麻婆丼を食べながらふと白い豆腐は僕みたいなだなって思った。

いつもなら思わない。ただ大人で社会人の僕はなんだか色々と疲れたみたいだ。限界ってやつかもしれない。

脆くて周りに流されやすくて、侵食されやすくて気づけば白は別の色に染まっていて。

赤く染まった豆腐を見ながら、ぐるぐるかき混ぜると豆腐が勿論小さくなって、元のカタチをなくすんだよね。

ああ、似てるな。って思った。

元の僕の心のカタチがわからない。

どうあれば良かったのかもわからない。


疲れた。その一言にすぎるんだよね。

心の中を吐き出せば同じく麻婆丼を食べている彼からは『なんでそうなんだろうね』って答えになってない答えが返ってきて、どう受け取ったらいいのかわかんなくなる。

そんな僕を察したのかウーロン茶で喉を潤してから『どこかで他人に期待してるんじゃない』って付け足した。

そんなつもりないけどな…って口に出してからふと思う。


『そんなつもりない』なんてモノは本来ないのかもしれない。

ただ何となく忙しさや疲れを言い訳にして日々が雑になって、誰かから『そんなつもりない』と呼ばれるような概念や事柄が意図せず生まれていくのかもしれないし、もしかしたら非難されるような事柄を『そんなつもりない』と平気でできてしまう人だっているだろう。

他人ってムズカシイ。

よく考えれば目の前の人も他人だし。

『どした?』って気遣うように聞かれて
僕は首を振る。貴方のこと今他人だなって確認してました、なんて言えっこない。

でも少なくとも心の色は少し似てるのかもしれない、なんて思った。

僕は誰かと心の底から分かり合えるなんて思ってない。
だってそんなのエゴでしかなく幻想だと大人なのでわかってる。

ご馳走と箸を置いて、ティッシュで口元を拭えば赤く染まる。

少し早めに食べ終わった彼は早速、キッチンで煙草をふかしている。

煙草の白い煙が何だかいつもより主張強めに思えて、憎らしくなるのは、いつまでたっても煙草がやめられない彼への恨みからだろうか。それとも上手に気持ちを切り替えて、心を守ることができる彼の器用さに嫉妬してるからだろうか。

ため息が溢れる。いま、ため息に色をつけたら僕のは黒く染まってるかもしれない。

きっとこれからも心が弱くてくだらないことに執着しては途方にくれる僕が、何ものにも染まらないなんて無理だ。

けど、せめて染まる色は選びたい。

ううん。選べるようにほんの少しだけ強くなりたい。

少なくとも目の前の他人で、どこまでいっても心から分かり合えない彼を選んだのは自分自身。居心地はそれなりにいい。間違えてない。

ちゃんと大事なことは自分で選べる強さがあるだとしたらそれで充分だ。

最後の麻婆丼を口に入れる。

ピリ辛のタレを豆腐がうまく調和してまろやかにしてくれる。


白くて触れれば簡単にカタチをなくす弱い豆腐は、他の何よりきっと優しい。


2026.3.1