
小さい頃から別れが苦手だった。
何故だか、『またね』がもう二度と会えない『ばいばい』の気がして怖くなった。
不安を口に出せば、それが本当になってしまう気がして誰にも言えなかった。
口に出せなくても、出さなくても
別れは突然やってくる。
あの日、『またね』と思っていたけど、それが『ばいばい』になったとき壊してはいけない心の大事な境界線が脆くなって、あやふやになって、心が麻痺してわからなくなった。
心が冷たいのか、熱いのか、そのどちらでもないのか。
心が悲しいのか、寂しいのか、そのどちらともなのか。
心が苦しいのか、泣いているのか、そのどちらとも違うのか。
透明な水たまりに墨を落としたみたいに、色んな黒い感情が円を描いてじわりと侵食して、ぐるぐる巡っては心を鉛のように重くする。
いくつもの季節が過ぎても、やっぱり『ばいばい』を受け入れることができなくて、心の感覚は痺れたまま。
でもね、ある時。痺れた心の周りにはようやく小さな花が咲き始めたことに気づいた。
キミの言葉。キミの匂い。キミの夢。
キミの体温。キミの仕草。キミの笑顔。
別れの境界線がいつか優しい花でいっぱいになる頃、僕はようやく背を向ける。
振り返ることもきっとあるだろう。
懐かしむこともあるし、涙することもあるかもしれない。
でも境界線に縛られることはない。
だって──その境界線はもうどこにもないから。
2026.2.18



