雨の音に乗せて洗い流すように、私は今日起きた出来事をポツリポツリ……と、ひとつずつ零していく。

 今日はデートだったこと。
 けれどもカフェで、元彼に別れを切り出されたこと。
 ……そして、新しい彼女が迎えに来て、ふたりでどこかに行ってしまったこと。
 もともと彼は、私と合うとつまらなそうにしていたこと……。

 話が終わる頃には雨が止んで、外からの雨音が聞こえなくなっていた。

「彼が君をつまらないと思ったのは、元々性格が合わなかったからだろうね」
「そう……でしょうか。やっぱり私の性格が……」

 可愛くないから……。
 そう思っていたから、バーテンダーさんの次の言葉にハッとさせられた。

「そもそも、性格が合わないってだけでそんな振り方をする人間なんだ。元彼は酷いやつだと思うよ」
「ひどい……でしょうか」
「ああ。一方的に別れを告げただけじゃなくて、これ見よがしにお客さんに新しい彼女を見せるなんてさ。意地悪だよ」
「あ……」
「そのまま付き合っていたって、いつかは悲しい目に合っていたと思う。そんなやつと別れて正解だね」

 バーテンダーさんと話す前までは、私が彼に振られてしまった理由は、私に問題があるからだと思っていた。

「元彼の言動に傷付けられて、どうして振られてしまったんだろうと思い悩む君に、落ち度があったなんて思えない」

 私は平凡な顔立ちだけど、化粧もオシャレも精一杯していて。
 彼との会話も、つまらなさそうにするたびに私は必死に言葉を紡いでいて。
 それでも彼は、私のことをつまらないと言うから……。
 私はだめな女なんだって、振られたときに反射的にそう思い込んでしまった。

 ……だけど。

「だから、本当に単純な話でさ」

 私は、つまらない人間なんかじゃなくて……。

「元彼とは合わなかったんだよ」

 ……ただ、それだけなんだ。

「大丈夫。お客さんに合う人に、きっと明日にでも出会えるはずだよ」

 それはさすがに大げさだと思って、思わず苦笑する。

「それにカフェのお代もお客さん任せだったんでしょう!? まったく、信じられないな」

 私の代わりにバーテンダーさんが怒ってくれて、私の心が救われていく気がする。

「そいつらストロベリームーンを見に行こうって言っていたんだよね? なら今頃びしょ濡れになって、お客さんに意地悪した報いを受けてるよ」
「ふふ……そうですね」

 私はようやく、なんであんな人と付き合っていたんだろう……と思えるようになった。

「うん。表情がよくなったね。少しだけでも吹っ切れたかな?」
「はい。ありがとうございます。飲み物を頂いただけじゃなくて、お話も聞いてくださって……」
「どういたしまして」

 私の手元にあった蒸しタオルはすっかりとぬるくなっていて、ミルクティーも飲み干した頃。
 バーで温もりを取り込んだ私の心までもが、ポカポカしていた。