そのあと、私はどうしたんだっけ。
両思いだと思っていたのに振られたことが、悲しくて。
見せしめのように別れを切り出されたことが、悔しくて。
ひとりぼっちになって、切なくて……。
涙が抑えきれなくなって、ひとり取り残されたカフェを後にしたところまでは覚えている。
会計時に申し訳なさそうにしていた店員さんに、別れ話を聞かれてしまったと思うと……。
……惨めさが加わって、胸が苦しくなった。
そうなると、溢れ出した思いを止めることが出来なくなってなってしまって……。
しばらくの間、誰もいないところで寂しく泣き腫らしていた。
「帰らないと……」
まだ心に傷が残るけれども、たくさん泣いたおかげもあってか、涙は抑えることはできるようになった。
日が落ちた頃合いで、涙を我慢しながら電車に乗って駅から出ると……。
「雨だ……」
今日の天気予報はデート日和。
だから傘は持ってきていない。
まるで、私の心を反映するかのようにしとしとと雨が降る中、傘をささずに帰路につく。
ひとり暮らしの私は、家に帰るとひとりぼっちになる。
本来なら、今日は彼が家に遊びに来てくれる予定だったけれども……。
……そう思うと、また涙が抑えられなくなってしまう。
元彼を迎えに来た彼女は、可愛らしい顔立ちで服装もオシャレだった。
何もかも平凡な私とは違う。
水たまりから水が跳ねて、デートのために買ったばかりのワンピースに泥がつくのがお似合いな私とは……違うから……。
だから元彼は、あの子を選んだのだろう。
こんなみっともない姿の私を、誰が選んでくれるんだろう……。
そう思っていたとき、ふいに雨が止んだ。
「君! ずぶ濡れじゃないか! 傘を貸してあげるから、持って行って」
……違う。
見知らぬ男性が、私の頭上に傘をさしてくれていた。
「もう濡れてるので……いまさらです」
優しいひとに対してこんな受け答えするなんて、私はなんて可愛くないんだろう。
だから彼につまらない性格だって、言われてしまったのかもしれない。
また、涙が溢れて止まらなくなりそうな予感がして、私は俯く。
「……じゃあうちのバーで雨宿りしていくのはどうだい?」
「バー?」
男性が振り返った視線の先にあったのは、シックなデザインのメニュー看板。
よく見ると、彼の服装は白いシャツに黒いベストと蝶ネクタイという、バーテンダーの恰好をしていた。
「一年ぶりにお店を開いたのに閑古鳥で、店じまいしようと思っていたんだよ。お客さんが来てくれると、ありがたいな」
「……でも、びしょ濡れなので……」
濡れていることを言い訳にしたけれども、それだけじゃない。
本当はなによりも、泣いて腫れた顔を見られたくなかった。
「それならタオルを貸してあげる。あと服は……あいつのを制服借りればいいか」
「そこまでしてもらうわけには……」
「まあまあ。うちのバーが雨から君を守る代わりに、君は経営状況が危ういバーを助けると思って、一杯いかがかな?」
「でも……私、強いお酒は飲めなくて……」
「大丈夫。ノンアルコールだってあるし、お客さんの好み合わせて調整するよ」
あまりにもバーテンダーさんがグイグイ来るので、私は泣きそうだったのも忘れて少し引いてしまった。
「あっ。ごめん、つい……。こんなに押しが強いと安心できないか……。うちは怪しいバーじゃないよ」
「どうしてそこまで……?」
「単純に心配だったからだよ。うちが信用できなかったら、傘だけでも借りて行ってくれないかな?」
ふと、彼の優しさに甘えたくなってしまった。
どうせなら、騙されたと思って……この優しさに触れたい。
「あの、バーにお邪魔しても……良いですか?」
やっと私が顔を見上げると、バーテンダーさんが優しい顔立ちに笑みを浮かべた。
「もちろん。大歓迎さ」
両思いだと思っていたのに振られたことが、悲しくて。
見せしめのように別れを切り出されたことが、悔しくて。
ひとりぼっちになって、切なくて……。
涙が抑えきれなくなって、ひとり取り残されたカフェを後にしたところまでは覚えている。
会計時に申し訳なさそうにしていた店員さんに、別れ話を聞かれてしまったと思うと……。
……惨めさが加わって、胸が苦しくなった。
そうなると、溢れ出した思いを止めることが出来なくなってなってしまって……。
しばらくの間、誰もいないところで寂しく泣き腫らしていた。
「帰らないと……」
まだ心に傷が残るけれども、たくさん泣いたおかげもあってか、涙は抑えることはできるようになった。
日が落ちた頃合いで、涙を我慢しながら電車に乗って駅から出ると……。
「雨だ……」
今日の天気予報はデート日和。
だから傘は持ってきていない。
まるで、私の心を反映するかのようにしとしとと雨が降る中、傘をささずに帰路につく。
ひとり暮らしの私は、家に帰るとひとりぼっちになる。
本来なら、今日は彼が家に遊びに来てくれる予定だったけれども……。
……そう思うと、また涙が抑えられなくなってしまう。
元彼を迎えに来た彼女は、可愛らしい顔立ちで服装もオシャレだった。
何もかも平凡な私とは違う。
水たまりから水が跳ねて、デートのために買ったばかりのワンピースに泥がつくのがお似合いな私とは……違うから……。
だから元彼は、あの子を選んだのだろう。
こんなみっともない姿の私を、誰が選んでくれるんだろう……。
そう思っていたとき、ふいに雨が止んだ。
「君! ずぶ濡れじゃないか! 傘を貸してあげるから、持って行って」
……違う。
見知らぬ男性が、私の頭上に傘をさしてくれていた。
「もう濡れてるので……いまさらです」
優しいひとに対してこんな受け答えするなんて、私はなんて可愛くないんだろう。
だから彼につまらない性格だって、言われてしまったのかもしれない。
また、涙が溢れて止まらなくなりそうな予感がして、私は俯く。
「……じゃあうちのバーで雨宿りしていくのはどうだい?」
「バー?」
男性が振り返った視線の先にあったのは、シックなデザインのメニュー看板。
よく見ると、彼の服装は白いシャツに黒いベストと蝶ネクタイという、バーテンダーの恰好をしていた。
「一年ぶりにお店を開いたのに閑古鳥で、店じまいしようと思っていたんだよ。お客さんが来てくれると、ありがたいな」
「……でも、びしょ濡れなので……」
濡れていることを言い訳にしたけれども、それだけじゃない。
本当はなによりも、泣いて腫れた顔を見られたくなかった。
「それならタオルを貸してあげる。あと服は……あいつのを制服借りればいいか」
「そこまでしてもらうわけには……」
「まあまあ。うちのバーが雨から君を守る代わりに、君は経営状況が危ういバーを助けると思って、一杯いかがかな?」
「でも……私、強いお酒は飲めなくて……」
「大丈夫。ノンアルコールだってあるし、お客さんの好み合わせて調整するよ」
あまりにもバーテンダーさんがグイグイ来るので、私は泣きそうだったのも忘れて少し引いてしまった。
「あっ。ごめん、つい……。こんなに押しが強いと安心できないか……。うちは怪しいバーじゃないよ」
「どうしてそこまで……?」
「単純に心配だったからだよ。うちが信用できなかったら、傘だけでも借りて行ってくれないかな?」
ふと、彼の優しさに甘えたくなってしまった。
どうせなら、騙されたと思って……この優しさに触れたい。
「あの、バーにお邪魔しても……良いですか?」
やっと私が顔を見上げると、バーテンダーさんが優しい顔立ちに笑みを浮かべた。
「もちろん。大歓迎さ」