シロたちの短い咆哮が出迎えてくれる中、滝壺に戻った海音は細かな水飛沫と共にそっと地面に下ろされる。
エレベーターから降りた直後のように足元がふらついてその場に座り込んでしまうと、胸元近くまで伸びた髪とあらゆる汚れが柄のように点在する破れた袖が川風を纏ってふわりと広がる。そこにすかさずシロが飛びついてきたので、海音はシロを抱き留めながら何度も白と黒の長い毛に覆われた身体を愛撫したのだった。
「ごめんね、シロちゃん、みんな。急に消えたから心配かけちゃったよね。でももう大丈夫。これから蛍流さんを助けに行くからね」
他の虎たちが許すというように小さく鳴く中、シロだけは心底心配したんだと言いたげに何度も頭を擦り付けてくる。雌虎だけあって同性の海音にとりわけ優しいのか、それとも単に甘えん坊な性格なのか。どちらにしても全く悪い気はしなかった。
ひとしきりシロを撫で回して立ち上がったところで、水中から青龍の姿をした清水が現れたので海音は表情を引き締めて清水を見つめる。
「嫁御寮。半身の居所まではシロたち守護獣に案内してもらうと良い。守護獣たちなら半身の神気を辿れるであろう」
「屋敷にいるんじゃないんですか?」
「……この荒天を自力でどうにかしようと、其方が気を失っている間に移動したようだ。ここから屋敷に続く道は大木が倒れて封鎖されている。となれば、半身が向かう先はそう多くない。屋敷裏を通って、鬱蒼とした森の中に消えたようだ」
「屋敷裏には蛍流さんが師匠さんから受け継いだ畑がありますが、その先にあるのは森なんですか?」
「左様。外界から屋敷を守るように広がる草深い森を抜けた先には大きな崖に囲まれた渓谷がある。あの辺りは連日の雨で地盤が緩んでおり、いつ崩れてもおかしくない。落下したのなら、半身とてひとたまりも無いだろう……」
「そんなっ……!? 早く止めないと!」
「守護獣たちの力を借りれば、今ならまだ追いつけるはずだ。早く追いかけるといい」
それだけ告げると、清水の姿は霞のように消えてしまう。夢幻かと思ったが、頭の中で清水の声が反響する。
――急げ、嫁御寮。半身がその身を捧げる前に。
その言葉に全身が総毛立つと、反射的に海音は「シロちゃん!」と傍らの守護獣に叫んでいた。
「蛍流さんの神気を辿って欲しいの。やってくれる?」
その言葉にシロは「ばふっ」と鳴くと、他の虎たちと一緒に地面をクンクン嗅ぎ出す。そうして蛍流の神気を見つけたのか、虎たちは一点に向かって駆け出していく。海音も後を追い掛けようとしたが、先程背に乗せてくれた虎が袖を咥えて引っ張ってきたので、意図するところを察して黄色と黒色の獣毛に覆われた背に跨る。
シロたちを追いかけるように駆け出した虎にしっかりと捕まりながら海音は先を急いだのだった。
◆◆◆
エレベーターから降りた直後のように足元がふらついてその場に座り込んでしまうと、胸元近くまで伸びた髪とあらゆる汚れが柄のように点在する破れた袖が川風を纏ってふわりと広がる。そこにすかさずシロが飛びついてきたので、海音はシロを抱き留めながら何度も白と黒の長い毛に覆われた身体を愛撫したのだった。
「ごめんね、シロちゃん、みんな。急に消えたから心配かけちゃったよね。でももう大丈夫。これから蛍流さんを助けに行くからね」
他の虎たちが許すというように小さく鳴く中、シロだけは心底心配したんだと言いたげに何度も頭を擦り付けてくる。雌虎だけあって同性の海音にとりわけ優しいのか、それとも単に甘えん坊な性格なのか。どちらにしても全く悪い気はしなかった。
ひとしきりシロを撫で回して立ち上がったところで、水中から青龍の姿をした清水が現れたので海音は表情を引き締めて清水を見つめる。
「嫁御寮。半身の居所まではシロたち守護獣に案内してもらうと良い。守護獣たちなら半身の神気を辿れるであろう」
「屋敷にいるんじゃないんですか?」
「……この荒天を自力でどうにかしようと、其方が気を失っている間に移動したようだ。ここから屋敷に続く道は大木が倒れて封鎖されている。となれば、半身が向かう先はそう多くない。屋敷裏を通って、鬱蒼とした森の中に消えたようだ」
「屋敷裏には蛍流さんが師匠さんから受け継いだ畑がありますが、その先にあるのは森なんですか?」
「左様。外界から屋敷を守るように広がる草深い森を抜けた先には大きな崖に囲まれた渓谷がある。あの辺りは連日の雨で地盤が緩んでおり、いつ崩れてもおかしくない。落下したのなら、半身とてひとたまりも無いだろう……」
「そんなっ……!? 早く止めないと!」
「守護獣たちの力を借りれば、今ならまだ追いつけるはずだ。早く追いかけるといい」
それだけ告げると、清水の姿は霞のように消えてしまう。夢幻かと思ったが、頭の中で清水の声が反響する。
――急げ、嫁御寮。半身がその身を捧げる前に。
その言葉に全身が総毛立つと、反射的に海音は「シロちゃん!」と傍らの守護獣に叫んでいた。
「蛍流さんの神気を辿って欲しいの。やってくれる?」
その言葉にシロは「ばふっ」と鳴くと、他の虎たちと一緒に地面をクンクン嗅ぎ出す。そうして蛍流の神気を見つけたのか、虎たちは一点に向かって駆け出していく。海音も後を追い掛けようとしたが、先程背に乗せてくれた虎が袖を咥えて引っ張ってきたので、意図するところを察して黄色と黒色の獣毛に覆われた背に跨る。
シロたちを追いかけるように駆け出した虎にしっかりと捕まりながら海音は先を急いだのだった。
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