本来であれば国の守護神である七龍を害そうとした犯罪者として晶真は政府に引き渡されて沙汰を待つことになるが、青の地に未曾有の水害が起こる前であったことや晶真が七龍国の歴史上初めて黒龍に選ばれた人間であることから、蛍流と清水が情状酌量を求めているとのことであった。
海音は知らなかったが、これまでも黒龍が人間の強い負の感情を利用して顕現した記録はあるものの、負の感情を増幅させる黒龍の強い神気に心身が耐えられず、一人残らず黒い破片として砕け散っていた。現出した黒龍もその土地を守る七龍たちによって祓われ、その都度どこかへと消え去っていたため、行方を追い掛けられずにいたが、今回昌真が抱える負の感情に呼応して数百年ぶりに姿を現した。
黒龍は昌真に自身の神気を与えたが先代青龍の形代の血を引いていたからか、昌真は黒龍の力に振り回されることなく、また清水によって黒龍の神気を浄化されたことから、今は蛍流たち他の形代と同じように黒龍と国を繋ぐ神と同等の存在になっていた。
これまで誰も扱えなかった黒龍と良好な関係を築き、また黒龍の神気を扱えていることから、蛍流たちは晶真を黒龍の形代として政府に申請出来ないかと他の七龍たちに相談して協力を要請した。そうすることで晶真は蛍流と共に青の地の水害を止めようとして慣れない黒龍の力を暴走させてしまい、その結果蛍流と清水に危害を加えそうになったと、今回の騒動を説明する根拠にもなるとのことだった。晶真が現青龍である蛍流の兄であるという兄弟関係も、この理由を信じるに足るものとして後押ししてくれるだろうと蛍流たちは考えているという。
政府からの音沙汰を待つ間は晶真を清水の監視下に留めおくことになるが、ただ拘束するのではなく、少しでも罪を軽くするために、清水の提案でしばらくは二人のお目付け役とこの世界に疎い二人の教育係を担うことが決まったとのことであった。
そんな教育係となった晶真から、海音が鱗に覆われて砕けかけたあの時に何が起こったのか、詳細な顛末を教えられたのだった。
海音が鱗に覆われる前、昌真は黒龍が生み出した水晶球に清水を捕縛したものの、清水が持つ圧倒的な神気で水晶球が耐えられなくなった。その結果、清水は自ら水晶球を破壊して脱出し、再度蛍流を形代に選ぶことで混乱に陥りかけていた青の地を平定させた。それが出来たのも、清水が全盛期以上の力を取り戻せたからであった。
捕らえられる直前に清水は蛍流の代わりに罰を受けたことで力を失ってしまったが、その際に蛍流との繋がりも切れてしまっていた。
それにより蛍流に供給されていた神気が清水に戻っていき、清水は本来の力を取り戻していた。加えて、蛍流自身が歴代の青龍の形代の中で最も神気を持っていたこともあり、清水はこの山で龍脈の守護につく前より強い力を得られたとのことだった。
それを知らなかった黒龍は想定を遥かに上回る神気を持っていた清水を抑えられなかった。水晶球さえ吸収出来ない神気を持っていた清水は自ら黒龍の呪縛から逃れると、青の地に起こっていた水害を抑えるために蛍流と海音をそれぞれ形代と形代の伴侶に選んだ。
そして蛍流には龍脈に流れる神気のコントロールを、海音には蛍流から溢れた神気を受け止める器としての役割を与えたという。
『海音も知っている通り、蛍流の力が不安定だった原因の一つは尋常じゃない量の神気だった。蛍流一人では抱えきれない量の神気を持っていたことで、これまでこの青の地は天候不順が続いていた。そこに蛍流と共鳴する存在として伴侶が現れた。伴侶の神気は形代から供給されることになる。つまり蛍流が持っている余剰分の神気は伴侶である海音――君に流れるが、伴侶とて一度に強い神気を流されてしまえばひとたまりも無い。身体は龍の鱗に覆われて砕けてしまうだろうな。丁度、二日前と同じように』
その時、昼餉として用意された粥に口をつけながら昌真の話に耳を傾けていた海音だったが、二日前という言葉で飛び上がりそうになる。
『そういえば、蛍流さんが言っていました。「余剰分の神気を吸い取った」って。つまりあの時も、蛍流さんから流れた神気に身体が負けそうになっていたということだったんですね』
『そういうことだ。そこで蛍流には一度君に流れた神気を自分に戻すように伝え、あいつは君に口吸いして神気を吸収した。それにより神気が減ったことで君の身体も自由が利くようになり、自力での呼吸も可能になっただろう。それでも一度に大量の神気を流し込まれた影響で、身体はすっかり悲鳴を上げてしまったようだが』
『やっぱりこの体調不良は神気を受けた影響なんですね……』
『まあ、君の場合は他にも原因がありそうだが……。正式に伴侶として選ばれた以上、これから君の身体は少しずつ神気に対する耐性を身に付け、蛍流と同じ悠久の時間を生きる存在となるように、身体が作り変えられていくだろう。その過程で身体にも変化が現れるだろうが、調べた限りでは人型を失うほどの変化は起こらないとのことだった。安心して流れに身を任せて欲しい』
ちなみに昌真の黒髪と黒目というのも、黒龍に選ばれて神気を受けたことで今の色に変わったとのことであった。蛍流も清水に選ばれてこの世界に来た時には、髪と目の色が変わっていたと言っていたので、海音たちに限らず他の形代とその伴侶も同じなのかもしれない。
以前よりも色素が薄くなった肌と藍色に近くなった髪を見ながら、そんなことを考える。
海音は知らなかったが、これまでも黒龍が人間の強い負の感情を利用して顕現した記録はあるものの、負の感情を増幅させる黒龍の強い神気に心身が耐えられず、一人残らず黒い破片として砕け散っていた。現出した黒龍もその土地を守る七龍たちによって祓われ、その都度どこかへと消え去っていたため、行方を追い掛けられずにいたが、今回昌真が抱える負の感情に呼応して数百年ぶりに姿を現した。
黒龍は昌真に自身の神気を与えたが先代青龍の形代の血を引いていたからか、昌真は黒龍の力に振り回されることなく、また清水によって黒龍の神気を浄化されたことから、今は蛍流たち他の形代と同じように黒龍と国を繋ぐ神と同等の存在になっていた。
これまで誰も扱えなかった黒龍と良好な関係を築き、また黒龍の神気を扱えていることから、蛍流たちは晶真を黒龍の形代として政府に申請出来ないかと他の七龍たちに相談して協力を要請した。そうすることで晶真は蛍流と共に青の地の水害を止めようとして慣れない黒龍の力を暴走させてしまい、その結果蛍流と清水に危害を加えそうになったと、今回の騒動を説明する根拠にもなるとのことだった。晶真が現青龍である蛍流の兄であるという兄弟関係も、この理由を信じるに足るものとして後押ししてくれるだろうと蛍流たちは考えているという。
政府からの音沙汰を待つ間は晶真を清水の監視下に留めおくことになるが、ただ拘束するのではなく、少しでも罪を軽くするために、清水の提案でしばらくは二人のお目付け役とこの世界に疎い二人の教育係を担うことが決まったとのことであった。
そんな教育係となった晶真から、海音が鱗に覆われて砕けかけたあの時に何が起こったのか、詳細な顛末を教えられたのだった。
海音が鱗に覆われる前、昌真は黒龍が生み出した水晶球に清水を捕縛したものの、清水が持つ圧倒的な神気で水晶球が耐えられなくなった。その結果、清水は自ら水晶球を破壊して脱出し、再度蛍流を形代に選ぶことで混乱に陥りかけていた青の地を平定させた。それが出来たのも、清水が全盛期以上の力を取り戻せたからであった。
捕らえられる直前に清水は蛍流の代わりに罰を受けたことで力を失ってしまったが、その際に蛍流との繋がりも切れてしまっていた。
それにより蛍流に供給されていた神気が清水に戻っていき、清水は本来の力を取り戻していた。加えて、蛍流自身が歴代の青龍の形代の中で最も神気を持っていたこともあり、清水はこの山で龍脈の守護につく前より強い力を得られたとのことだった。
それを知らなかった黒龍は想定を遥かに上回る神気を持っていた清水を抑えられなかった。水晶球さえ吸収出来ない神気を持っていた清水は自ら黒龍の呪縛から逃れると、青の地に起こっていた水害を抑えるために蛍流と海音をそれぞれ形代と形代の伴侶に選んだ。
そして蛍流には龍脈に流れる神気のコントロールを、海音には蛍流から溢れた神気を受け止める器としての役割を与えたという。
『海音も知っている通り、蛍流の力が不安定だった原因の一つは尋常じゃない量の神気だった。蛍流一人では抱えきれない量の神気を持っていたことで、これまでこの青の地は天候不順が続いていた。そこに蛍流と共鳴する存在として伴侶が現れた。伴侶の神気は形代から供給されることになる。つまり蛍流が持っている余剰分の神気は伴侶である海音――君に流れるが、伴侶とて一度に強い神気を流されてしまえばひとたまりも無い。身体は龍の鱗に覆われて砕けてしまうだろうな。丁度、二日前と同じように』
その時、昼餉として用意された粥に口をつけながら昌真の話に耳を傾けていた海音だったが、二日前という言葉で飛び上がりそうになる。
『そういえば、蛍流さんが言っていました。「余剰分の神気を吸い取った」って。つまりあの時も、蛍流さんから流れた神気に身体が負けそうになっていたということだったんですね』
『そういうことだ。そこで蛍流には一度君に流れた神気を自分に戻すように伝え、あいつは君に口吸いして神気を吸収した。それにより神気が減ったことで君の身体も自由が利くようになり、自力での呼吸も可能になっただろう。それでも一度に大量の神気を流し込まれた影響で、身体はすっかり悲鳴を上げてしまったようだが』
『やっぱりこの体調不良は神気を受けた影響なんですね……』
『まあ、君の場合は他にも原因がありそうだが……。正式に伴侶として選ばれた以上、これから君の身体は少しずつ神気に対する耐性を身に付け、蛍流と同じ悠久の時間を生きる存在となるように、身体が作り変えられていくだろう。その過程で身体にも変化が現れるだろうが、調べた限りでは人型を失うほどの変化は起こらないとのことだった。安心して流れに身を任せて欲しい』
ちなみに昌真の黒髪と黒目というのも、黒龍に選ばれて神気を受けたことで今の色に変わったとのことであった。蛍流も清水に選ばれてこの世界に来た時には、髪と目の色が変わっていたと言っていたので、海音たちに限らず他の形代とその伴侶も同じなのかもしれない。
以前よりも色素が薄くなった肌と藍色に近くなった髪を見ながら、そんなことを考える。