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 そのころ辺境の森林地帯では、サワラ元軍曹の率いるパトロール部隊と鮮魚人・盗賊などのグループが衝突していた。

「やっちまえ!」

「ぶっ殺すぞ! この野郎!」

 存亡危機の当事者であるだけに、見つけ次第にもはや容赦ない。通常は見逃されていることが多かったのだが、くだらない政治工作もこの状況下でさらに頻度と悪質さを増している。
 これまでならば、悪質な現行犯に対してですら、下手に怒りに任せて暴力・実力で対抗や排除勧告すれば「傷害罪」や「官憲による暴力行為」などで訴えられたり陥れされてしまうことが多かった(一般人では暴力で敵わず、見て見ぬ振りや逃げるしかなかった)。
 だがボンデホンやモンテロッソで半ばクーデターで親魔族ギャングがぶちのめされて政治状況が替わったため、今では軍やレジスタンスは遠慮なく武力をふるっている。実際にそうでもしなければ、一ヶ月後の安否すらも覚束ないだろう。
 空高く打撃音が響き渡る。

「バリスタ(大型の弩)、放てっ!」

 鮮魚人の甲冑は独特で、フレームに金属板を張った構造になっている。軽量であるものの空間の遊びと弾力があってショック吸収に優れて、斬りつけや打撃への防御効果が高い反面で、貫通力のある攻撃には弱い。つまり達人の槍による刺突や、大型の弓などだ。
 先端に魔法石器を付けた太矢は刺さったあとで爆発するから、生命力の高い鮮魚エルフやゴブリン(暗黒・猿ドワーフ)でもほぼ一撃で仕留められるだろう。「非人道的」と、ダブルスタンダードで非難されるゆえんではあるが。
 仕上げ槍や剣を持った戦士たちが突撃して、二十匹ほどを片付けた。

「これで、ちょっとは懲りると良いんだが」

「だけど、また「暴挙の虐殺だ」とか、宣伝屋からプロパガンダされそう?」

「気にしてられるか? やるかやられるかだぞ」

 目の前敵も脅威ではあるのだけれども、背後からの政治工作での妨害や陥れまで気にしなければいけないのだから、そのことでも苦慮したり四苦八苦なのであった。わざと事情を無視したり足を引っ張る目的でデタラメな言説を垂れ流したり、理不尽な訴訟を起こすような者たちが人間側に大勢いる。
 そのため、中央の有力都市群や他の地方への説明や釈明が欠かせず、それでまた余計な資金浪費や人員の徒労の負担になっている。


4
「ふむ。これだけの材料があれば、あの反抗的な原始人を公式に討伐できる」

 魔術協会の本部の一室で、ランク4のケテル丸木戸は腹心のランク5・ミャダイに狡知を開陳してホクホクとしていた。魔族側と裏で示し合わせ、強奪占領されたマテリアル鉱山の利益からマージンを受け取る密約も示し合わせてある。
 まるで妖怪のような連中であったが、それが魔術協会の運営に拘わって力を持っている。

「そういえば、あの混血のピエロはどうした?」

「臆病風に吹かれてるみたいですね」

「それは困る。派閥の意向や利益へ配慮して貰わなければ。あいつは魔族なのだから、模範を示して貰わねば。三人がかりで鮮魚エルフなぞ一山いくらで連れていけば、クリュエルの村など簡単に片付くさ」

 後ろ暗い政治謀略の黒い渦と潮流。
 もはや誰も逃げられないだろう。


5
 サワラが中央部からの特務司法官とやらから秘密裏に逮捕されて、引っ張っていかれたのはその日の夜のことだった。夜が明けてから事態を知ったジョナス大尉などにはもはや奪い返すことは困難で、中央部都市の獄舎に連れ去られたあとだったのである。
 その後の情報によれば、中央部都市の親魔族勢力の息がかかった裁判所で「暴力行為」「政治言論の自由を侵した罪」「人道に背いた罪」「私戦予備」などの複数の罪状で有罪判決され、ほぼ死刑は確実などと噂された。
 金や利益を貰えばどんな卑劣な弁論・宣伝でもする論客や学者たちは「極右過激派」などと高踏的に非難して、ならず者や鮮魚人たちが「俺たちこそが右翼の人間至尊主義だ!」と蛮行を働いて、イメージ捏造と印象操作しまくっている。