最初は包丁とフライパンを直に貸そうと思ったが、流石に怖かったので渡すのは『収納鞄』に入った食料という形にさせてもらうことにした。
 別にアリーシャが信用ならないわけではないけれど、ものがものなのでよほど信用していないと誰かの手に渡すのは怖い。
 何せこの二つ……直接的な戦闘能力こそ大してないものの、その凶悪さは下手をすればオリハルコン製のそれを上回るほどなのだから。
 まず色々と試してみた結果、『回復』によって材料を回復させることができる力は、フライパンだけでなく包丁にも宿っていることがわかった。
 というか調理の都合上、フライパンよりも包丁の方が効果は強力だった。
 このミスリル包丁の場合、素材を包丁によって切り離すことで怪我をしたと認識され、回復効果によって元の部分を取り戻すようなエンチャントになっていたのである。
 この怪我をしたと判断されるラインは、およそ素材の五分の一前後まで。
 つまり1キログラムのブロック肉から200グラムの肉塊を切り落とすと、ブロック肉の方で回復が発動し、元の1キログラムに戻るといった具合である。
 これを使えば、まるで錬金術のように大量の肉を生産することができる。
 この二つの道具があれば少なくとも食糧不足は回復させることができるだろう。
 ただこれはあまり軽々に世に出していいものではない。
 具体的に言うとこんなヤバい代物が作れたということが発覚すると、俺の身が危うくなる。 なので俺が『収納鞄』を作り、シュリが包丁で肉や野菜をカットして増やしていき、そしてジルがフライパンでポップコーンを製作(今回ばかりは盗み食い禁止と納得させた)という風にしっかりと役割分担をした上で、食料生産をしていくことになった。
 その間にナージャには領地に戻ってもらい、あいつらに俺が作った新作の魔道具を渡してもらうことにする。
 俺が作っていた新作の魔道具というのは……『通信』の魔道具だ。
 送受信が可能で音声と映像を行き来させることのできる魔道具の製作に成功したのだ。
 通信を一秒するのにAランクの魔石相当の魔力を使うために使える人物は非常に限られるが……なんにせよこれで、リアム達とのホットラインを作ることができる。
 山暮らしをして俺は痛感した。
 一度交友関係を切って、孤独な暮らしをしたからこそ思うのだ。
 やはり人との関わりというのは、大切だと。
 もちろんコミュニケーションに充てる時間は最低限でいいという考え方が変わったわけではないが……できればリアム達とくらいは、定期的に連絡を取っておきたい。
 そんな風に思うようになったのは……自然に囲まれる暮らしをした中で、俺が丸くなったからなのかもしれない。
 とりあえずナージャから連絡が来るまでは、ひたすら『収納鞄』作りに精を出すとしますかね。
 何せドワーフ達全部をまるっと救うほどの食料が必要なんだから、百や二百では利かないだろうし。
 鍛冶師としては少し物足りなくもあるが……人のために生きることこそ、鍛治師の本懐……だからな。