俺はまた夢を見ていた。これが夢だと自覚できる夢を。
 ということは王様に会える! チート、一つ減ってしまった大剣の魔石チート残機のチャージを何とぞ!

 と思ったが、今回はどうも初回とは違って、王様と意思の疎通ができそうにない。
 俺は以前会った玉座の間とは別の部屋で、黒の軍服姿の王様を眺めているしかできなかった。

 ここも多分、王宮内のどこかの部屋だ。
 誰かの私室のようだ。少し調度品は古いが、緑の濃い観葉植物が多く居心地の良い雰囲気。
 窓が半分空いていて、レースのカーテンを揺らしながら爽やかな風が室内に流れている。

「もうすぐ……もうすぐだぞ、――――」

 王様が誰かの名前を呼んでいる。だが呟きが低すぎて誰の名前かわからない。
 玉座に座っていたときのあの威圧感はどこへ行った? というくらい優しい声で、ベッドに眠る誰かの髪を、大きな手と長く太い指で撫でている。

 眠っているのは誰なんだろう。王様の相手ならお妃様かな? 王様のデカい身体が邪魔で見えなかった。
 くそ、俺と同い年ぐらいなのにもう既婚者か。俺と同じ顔ならそこそこモテるんだろうが、俺と違って大したリア充だ。う、羨ましくなんてないんだからな!


  * * *


 また場面が変わる。王様は雑多に物が詰め込まれた倉庫の中にいた。
 独り言を呟きながら、時折舞い踊るホコリに咳き込みつつ、箱を開けたり引き出しを開け閉めしたりと忙しない。

「オコメダ・ユウキめ。この私に良縁祈願などと……いや待てよ、良縁だけなら付与できる祈祷札がどこかにあったはず……」

 あるのか!? ならばお願いします、頑張れ王様、お札探しすごく頑張ってけろ!

「恋愛成就の加護なら私も欲しい。是非とも欲しい。しかしいったい誰に祈願すれば良いのだ? 恋愛を司る神人……いたか? 覚えがないな……」

 独り言をぶつぶつ言いながら宝物庫を漁っていた。
 そしてお目当てのものを見つけたようだ。俺と同じ黒い目を輝かせていたが、但し書きを読んで青ざめている。
 ――魅了の呪具だったからだ。RPGゲームならデロデロリンと不吉な音楽が流れて呪いにかかりそうなやつ……

「呪具で己に向けさせた愛など紛い物。愛は自力で見つけるか育むものだ……いずれ真実の愛ともなろう。……私も愛が欲しいな……くっ」

 ……王様もいろいろ苦労が多そうだ。
 俺は今後は王様にチートを求めるだけでなく、王様の幸せも祈ってやろうと決めた。



 王様、俺も今度こそ真実の愛が欲しいです。